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名古屋高等裁判所 昭和51年(ラ)65号 決定 1976年5月24日

抗告人

佐藤美津子

右訴訟代理人

高野篤信

外二名

相手方

株式会社十六銀行

右代表者

高橋順吉

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二当裁判所の判断

(一)  当裁判所の本件に関する事実認定は左に付加するものの他は、原決定の理由(原決定三枚目表一〇行目、一一行目)と同一であるから、ここにこれを引用する。

一件記録によれば本件根抵当権について昭和四九年三月二五日確定を原因として名古屋法務局同年四月二日受付第一六二二一号をもつて元本確定の登記が経由されていることが認められる。

(二)  右によれば本件根抵当はいわゆる旧根抵当であるから、昭和四六年法律第九九号民法の一部を改正する法律(以下単に民法改正法という)附則七条により、民法三九八条ノ七第一項、三九八条ノ一二の規定にかかわらず弁済をなすについて正当の利益を有する者は、元本の確定前であつても、弁済によつて根抵当債権者に代位し、根抵当権の一部移転を受けることが可能であつたわけである(民法五〇〇条、五〇二条)。

しかして、前記認定事実によれば、名古屋市信用保証協会は元本の確定前に、また愛知県信用保証協会は元本の確定後に代位弁済をしてそれぞれ本件根抵当権の一部移転を受けているものであるが、本件競売記録によれば、愛知県信用保証協会の弁済後も相手方の株式会社丸八テント商会に対する債権は、原決定債権目録記録のとおり元本金八一万四、〇四八円及びこれに対する遅延損害金が残存していることが認められるから、右残債権についてなお、本件根抵当権の効力が及ぶものであることは明白である。

ところで民法五〇二条によれば債権の一部について代位弁済があつたときは、代位者はその弁済した価額に応じて債権者とともにその権利を行う旨を規定している。そして、右の規定によれば、本件において名古屋市信用保証協会及び愛知県信用保証協会は相手方と本件根抵当権を準共有していることになるわけである。しかしながら、本件のように債権の一部弁済による代位においては、一部代位者は単独で代位した権利を行使し得るのではなく、債権者(本件においては相手方)がその権利を行使する場合にのみ債権者と共にその権利を行うことができるものであり、弁済についても債権者に劣後するものと解するのが相当である。けだし、右のように解しないと抵当債権者が自己の意に反して抵当権を実行され、将来にわたる担保のもつ作用を失うなどの不利益を受けるとともに、按分比例で配分することは抵当権の不可分性(民法二九六条、三七三条)に反することになるからである。また債権者を害してまで求償権者を保護する必要もないというべきである。

したがつて、本件においては相手方は名古屋市信用保証協会及び愛知県信用保証協会に優先して、本件根抵当権を実行して前記残債権の弁済を受けることができるものというべく、右各協会は本件根抵当権の極度額から相手方が優先弁済を受けた額を控除した残額についてのみ本件根抵当権から弁済を受けることができるのである(したがつて本件競売記録中の相手方と愛知県信用保証協会の念書は当然のことを合意したにすぎないものとみるべきである。)。

(三)  したがつて、抗告人は本件根抵当権の極度額(但し民法三七四条の利息が加算される)以上の負担をしなければならないいわれはないわけである。

なお抗告人は本件根抵当権が設定された物件である原決定物件目録の不動産の第三取得者であるから民法改正法附則一一条、民法三九八条の二二により、相手方、名古屋市信用保証協会及び愛知県信用保証協会が本件根抵当権により、優先して弁済を受け得る極度額を払渡し又は供託して本件根抵当権の消滅請求をすることができるのである。

(四)  以上の次第で本件抗告は理由がなく、原決定は相当であるから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(丸山武夫 杉山忠雄 高橋爽一郎)

別紙即時抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、名古屋地方裁判所昭和五一年(ケ)第五六号別紙目録記載の不動産についての不動産競売手続開始決定(債権者被抗告人債務者株式会社丸八テント商会所有者抗告人)を取消す。

三、申立並に抗告費用は全部被抗告人の負担とする。

との裁判を求める。

即時抗告の理由

一、原決定は抗告人の主張通り愛知県信用保証協会が金三、〇八二、七二六円也を代位弁済したこと、右弁済額全額について根抵当権も代位することを認めながら優先弁済を受ける権利は被抗告人の権利に劣後すると解するのが相当であるとし、本異議申立を棄却している。

然しながら抗告人は本件不動産の所有者としての所謂物上保証人であつて債務者ではなく、その限度は各登記簿謄本記載の通り限度額は元金参百万円と遅延損害金だけである。したがつて抗告人は愛知県信用保証協会の代位弁済額金三、〇八二、七二六円也は右根抵当権の限度額以上であり、その限りに於て根抵当権の譲渡を右信用保証協会がうけている以上物上保証人である抗告人が被抗告人より残金並に根抵当権に基き競売をうける理由は全くないものと思料する。此点につき原決定は右信用保証協会の権利は抗告人の権利に劣後するというが、かかる法律の明文がないばかりか、その理由は全く了解することができない。

けだし、抗告人は右信用保証協会から代位弁済したからといつて代位弁済額につき請求をうけ、現に右信用保証協会には分割弁済中であり、若し原決定のいうが如き解釈が相当ならば物上保証額元金三百万円以上の支払いを強制されることになり、かかる解釈が不当であることは明らかで原決定には不服であるので茲に即時抗告をなす次第である。

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